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2003年6月30日発行 第16号

「聞こえの相談会」考8

難聴者にとっての家族の大切さ

 「聞こえの相談会」も回を重ねるにつれ、難しさに直面するケースが多くなっている。耳どころではない、重い病気にかかっておられたり、お目が不自由だったり。「聞こえ」にかこつけて、人生の相談にお見えになる方も多い。お話をお聞きすることしかできないケースもある。

ところで、最近、とくに気になっているのが、聞こえの悩みを抱える高齢者とそのご家族の関係についてである。

高齢者はいまの社会状況を反映してか、息子さんや娘さんと同居しているケースが少なくなった。老夫婦2人きりか、連れ合いを亡くして1人暮らしという例も多い。そして、近くに、息子さんや娘さん一家が住んでいるのに、うまくコミュニケーションがとれていないというのも、特徴のひとつである。

わが法人の相談会を訪れる高齢者の場合も、以上のような状況を物語るケースが多い。

実はこれが困る。

「聞こえの相談会」を訪れる高齢者の場合、最初はお1人で見える方が多い。身近に「聞こえの悩み」を相談する人がいないのである。私たちは家族の関係の大切さ、たとえ離れて暮らしていても、親の聞こえの悩みを子どもにも知ってほしいと考え、次回から、できれば、どなたかとご一緒に見えられることをおすすめする。

最近、この「離れた家族」とのコミュニケーションの行き違いの実例に出くわし、いろいろ考えさせられた。

やっと、近くに住んでいる娘さんと見えられるようになったおばあちゃん。あれこれ検討しているうち、なんとか補聴器が役立ちそうだということで、フィッティングにかかった。これも、ゆっくり、ゆっくりと時間をかけて進め、ほぼこれで決まり、という段になって、こんどは、はじめて娘婿なる男が現れ、何が気に入らないのか、わめきちらすのにはびっくりさせられた。もう、こうなると、こちらとしては「どうぞ、お好きに」と手を引くしかない。

おそらく、これまで義母の耳のことなどには何の関心も持たず、もとより「聞こえ」の問題にも全く無知かと思われる。NPO法人に対しても理解があるとは思えない。その後、どうなったか、わからない。おばあちゃんにとっては、残念な結果に終わったのである。

同居は煩わしい、という高齢者の気持ちもわかる。元気なうちは大丈夫、とタカをくくっていたのかも知れない。しかし、高齢になると、聞こえは少しずつ落ちてくる。しかも、介護保険の枠外である。たとえ息子、娘夫婦と別居していても、万一の場合を考え、コミュニケーションだけは、しっかりとっておきたいものでわる。

もとより、仲良く娘さんと見えるおばあちゃんもおられる。娘さんに甘えるおばあちゃん、見えるたびに、母子で漫才をやっていく愉快な親子もいる。いろいろ試みても、うまい対応がみつからない場合もあるが、こうして仲良くやってくる母子の場合は、そのコミュニケーションだけでも、癒し効果に加え、かなりの聞こえのカバー対策になっているように思うのである。

   
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